『ベーシックインカム/井上真偽』:AI・SFミステリーの新境地

個人的こんな方におススメ♬

 

こんにちは、RKOです。本日は2019年10月刊行、井上真偽作「ベーシックインカム」をご紹介したいと思います。「探偵が早すぎる」や「その可能性はすでに考えた」の作者・井上真偽さんが贈る、本格SFミステリー短編集です。

 

ベーシックインカムとは、政府がすべての国民に対して一定額の現金を定期的に支給するという政策の事で、フィンランドなどでは一部導入実験が行われています。格差社会の是正に効果があるとして提唱されていますが、その一方で、現状生活に困っていない人に対しては納税額が増えることによる労働意欲の低下が懸念されており、有識者によっても導入について賛否が分かれる政策です。

 

本作は、近未来のAIやVRが普及した社会とベーシックインカムとを関連付け、SFミステリーとして完成させた作品です。

 

ズバリ、この作品は、

『リアリティの高い本格SFミステリーを読みたい』人向けです。

 

概要

 

日本語を学ぶため、幼稚園で働くエレナ。暴力をふるう男の子の、ある“言葉”が気になって―「言の葉の子ら」(日本推理作家協会賞短編部門候補作)。豪雪地帯に取り残された家族。春が来て救出されるが、父親だけが奇妙な遺体となっていた「存在しないゼロ」。妻が突然失踪した。夫は理由を探るため、妻がハマっていたVRの怪談の世界に飛び込む「もう一度、君と」。視覚障害を持つ娘が、人工視覚手術の被験者に選ばれた。紫外線まで見えるようになった彼女が知る「真実」とは…「目に見えない愛情」。全国民に最低限の生活ができるお金を支給する政策・ベーシックインカム。お金目的の犯罪は減ると主張する教授の預金通帳が盗まれる「ベーシックインカム」。(「BOOK」データベースより)

 

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RKOの個人的おススメ指数

 

謎の素晴らしさ: A(全てのストーリーに意味があるんですね)

文章構成: S(憎い演出ですね)

登場人物: B(技術の進歩に翻弄される人々の姿が感じられます)

読みやすさ: S(SF設定ながらも非常に丁寧に説明されて読みやすいです)

再読したい度: S(リアリティが感じられるSF作品としても完成されています)

おススメ指数 S

AI・SFミステリーの新境地を感じました。面白かったです。

 

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感想

 

本作は、AI・VR・遺伝子操作といった技術進歩が著しい科学技術分野がさらに発達した近未来社会を舞台とした短編5作が収録された短編集です。近未来社会における科学技術がもたらす負の側面を強調した作品とは少し異なり、あくまでその中の人間の心情にスポットをあてたミステリーが収録されています。それだけに、決して他人事とは思えない、高いリアリティを感じさせるSF小説として読むことができます。

 

特に私が面白いなと感じたのは、第1話の「言の葉の子ら」です。日本語をテーマにした本作では、日本語の難しさや奥深しさが見事に表現されているように感じました。特に「形態素解析」といった「自然言語処理」の手法が紹介された事に個人的にはテンションが上がりました。英語では、I am a studentといったように単語毎に区別する事が容易ですが、日本語では、「すもももももももものうち」といった文章では、「すもも も もも も もも の うち」といったように「形態素」という最小単位に分割する事で意味を理解する事ができます。その他、「私」という表現にも「俺」「あたし」「あたい」など様々な言い方が存在しますね、こういった日本語の表現をうまく活用したミステリー作品で、興味深く読ませていただきました。

 

また、第5話のベーシックインカムでは、流石の井上真偽ミステリーらしく様々な仕掛けが施されており、読後の余韻も強く感じられます。短編集ながらも非常に強いテーマ性を持った個性のあるお話が並んでおり、純粋に面白いと思える作品でした。

 

リアリティの高い近未来SFミステリーである本作。個人的には、井上真偽さんの作品は「探偵が早すぎる」や「その可能性はすでに考えた」など、コミカルで楽しめる本格ミステリーという印象がありましたが、それらの作品とはまた違った雰囲気と世界観を感じることができる素晴らしい作品でした。もしご興味を持たれた方は是非とも本作をチェックしてみてください。

 

 

(参考記事)

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