『涼子点景1964/森谷明子』:8人の視点から時代に翻弄された少女の姿を描く連作ミステリー

個人的こんな方におススメ♬

 

こんにちは、RKOです。本日は2020年1月刊行、森谷明子作「涼子点景1964」をご紹介します。本作は、1964年に開催された東京オリンピックを背景として時代に翻弄された一人の少女を描いた連作ミステリーです。

 

森谷明子さんは、紫式部を探偵役とした『千年の黙 異本源氏物語』で第13回鮎川哲也賞を受賞してデビューされた作家さんですね。本作は8人の視点から「涼子」という人物と彼女に関する謎を追う姿が描かれており、少しずつ涼子という一人の少女の実像が明らかになっていきます。

 

(参考)千年の黙 異本源氏物語

 

ズバリ、この作品は、

『世界観に没入できる連作ミステリを読みたい』人向けです。

 

概要

 

1964年のオリンピック決定に沸く東京で、競技場近くに住む一人の男が失踪した。娘は自分の居場所と未来を手に入れるため、逆境をバネに、幸運を味方に、生き抜いてゆく。緻密な伏線と謎が心を搦めとる長編ミステリー。(「BOOK」データベースより)

 

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RKOの個人的おススメ指数

 

謎の素晴らしさ: B(各話の伏線が一つの大きな謎につながっていきます)

文章構成: A(涼子の人物像が最後まで掴めないのが面白いですね)

登場人物: S(8人の視点から涼子の印象がどんどん変化していきます)

読みやすさ: A(オリンピックと日本の復興という背景が作品にうまく調和しています)

再読したい度: S(忘れた頃に読み返したくなる作品)

おススメ指数 A

8人の視点から巧みに描き分けられていました。面白かったです。

 

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感想

 

終戦から19年、敗戦からの復興としてオリンピックの開催に沸く東京。東京という街が急激に姿を変えようしているその裏で、時代に翻弄された人々がいました。本作は「涼子」という一人の少女の実像について、彼女を含め8人の視点から迫っていきます。「涼子」という女性は何者なのか?各章に散りばめられた様々な伏線が少しずつ紐解かれていきます。

 

本作は序章と終章を除き、八章それぞれで「涼子」と時代を共にした人物の視点から描かれます。登場人物は「涼子」の同級生であったり、家族であったり様々な関係性の人々であるのですが、各章で「涼子」への印象の違いが巧みに描き分けれているのがポイントです。その為、終盤まで「涼子」が何者であって、何を考えて行動を起こしているのかが中々掴めないのです。この辺りのもどかしさが、涼子視点の第八章、そして終章で一気に解消されていくので、終盤で一気に霧が晴れた感覚を感じることができます。

 

また、1964年の東京オリンピックと日本の復興という時代背景が見事に調和しています。前回の東京オリンピックの時は生まれていなかったんですが、当時の日本が置かれた立場が丁寧に示されており、大変勉強になりました。当時中国は核実験を行い、オリンピック参加も拒否していたんですね。戦後復興という時代だからこそのミステリーも展開され、世界観と非常にマッチした作品であるように感じました。

 

1964年の東京オリンピック開催の裏で、時代に翻弄された一人の少女の物語。各話魅力的でありながらも最後には一つの謎につながっていきます。非常に読み応えのある作品ですので、興味を持たれた方は是非とも本作をチェックしてみてください。

 

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