個人的こんな方におススメ♬
こんにちは、RKOです。本日は2020年4月刊行、阿津川辰海作「透明人間は密室に潜む」をご紹介します。新鋭本格ミステリ作家である阿津川辰海さん「初」の中編集です。
阿津川辰海さんは新人発掘プロジェクト「KAPPA‐TWO」から『名探偵は嘘をつかない』でデビュー。本格ミステリのトリックやロジック構築に関して妥協が全くなく、2020年本格ミステリベスト10でも『紅蓮館の殺人』が第3位にランクインしております。注目の本格ミステリ作家さんです。
(参考1)名探偵は嘘をつかない [デビュー作]
(参考2)紅蓮館の殺人[2020年版本格ミステリベスト10:第3位]
そんな阿津川さん「初」の4編の中編を含む中編集という事で、大いなる期待を持って手に取りました。結果として「買って大正解」でした。自身が好きな「リアル脱出ゲーム」や「アイドル(オタク文化)」など遊び心を取り入れながらも読み応えのあるトリック満載で、ノンシリーズなのが勿体ない中編集です。
ズバリ、この作品は、
概要
透明人間による不可能犯罪計画と、意外すぎる動機。
裁判員裁判×アイドルオタクのアクロバティックな法廷ミステリ。
録音された犯行現場の謎と、新米探偵のささやかな特技。
クルーズ船内、脱出ゲームのイベントが進行する中での拉致監禁――。一編ずつ、異なった趣向、違った設定で作り上げられた、絢爛多彩、高密度の短編集。『紅蓮館の殺人』のスマッシュヒットで注目をあつめた新鋭が、本格ミステリの魅力と可能性に肉薄する。(「BOOK」データベースより)
RKOの個人的おススメ指数
謎の素晴らしさ: S(4編とも非常に読み応えのあるトリック)
文章構成: A(ラストまで結末が読めず楽しめます)
登場人物: A(各キャラクターに人間味が出ていて作品に色を添えています)
読みやすさ: S(論理的な説明も嫌味がなく理解しやいです)
再読したい度: S(どのお話もノンシリーズなのが勿体ない)
おススメ指数 S
4編とも自由な発想と緻密なロジックを堪能できました。
感想
本作は、以下の4編を収録した中編集です。
1 「透明人間は密室に潜む」
2 「六人の熱狂する日本人」
3 「盗聴された殺人」
4 「第13号船室からの脱出」
「透明人間は密室に潜む」は透明人間病にかかった女性を主人公とした倒叙ミステリーです。倒叙ミステリーとは、犯人が予め提示されたミステリーの事で、古畑任三郎や刑事コロンボなどが代表作品です。阿津川さんも倒叙ミステリが好きだという事で、透明人間を犯人とするという設定をうまく活用したミステリーが展開されます。
「六人の熱狂する日本人」は「裁判員制度とアイドルオタク」を組み合わせたミステリー。もしも、被害者も加害者も陪審員も皆アイドルオタクだったらどうなるだろうという、不思議な状況下での推理合戦が描かれます。
「盗聴された殺人」は耳がとてもなく良い「山口美々香(みみか)」を中心とした本格ミステリです。超能力系まではいかないですが、特殊設定を活用した良質ミステリーです。トリックも理詰め理詰めで最後まで気の抜けない作品です。
「第13号船室からの脱出」は、「リアル脱出ゲーム」をリスペクトしたミステリーで、イベントの裏で起こる誘拐事件の顛末が描かれます。リアル脱出ゲームとは、様々な場所を舞台に「謎」を解いてその場所から脱出するイベントです。本作はただ単に謎を解くというレベルではなく、事件の背景を中心に様々な要素が絡みあって一つの真相が導き出されます。
透明人間を使ったトリックの発想「透明人間は密室に潜む」、脱出ゲームを基盤として本格ミステリとして成立させた「第13号船室からの脱出」など各設定についてかなり細部まで突き詰めてストイックに描かれています。「透明人間の場合、食べたものは見えるんだろうか?」など細かい部分まで推敲を重ねてロジックを構築されている為、非常に納得性も高く、満足感も得られるミステリーに仕上がっています。
また、各作品ともノンシリーズなのが勿体ない程、各キャラクターの魅力が印象的でした。各話共にトリックも非常に練られているため、それだけでも楽しめるのですが、短い作品ながらもキャラクターの造形が描かれているように感じました。そのため、各作品読後には名残惜しさも感じられて、「もう少し読んでみたいな」と思わせてもくれる中編集でした。
新鋭本格ミステリ作家阿津川辰海さん初の中編集である本作。各話それぞれ魅力が感じられて、充実感も得られる本格ミステリ作品です。もしご興味を持たれた方は是非とも本作をチェックしてみてください。